Feb 2, 2025: (±) どこまでプレビズするか
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2回にかけて工作機械やCNCへの興味をうだうだと綴ったわけですが、今作っている映像が要するに何なのかについて、手短に説明したいと思います。
まず、繰り返しにはなるんですが、3Dプリンタとフライス盤という2種類のCNCをフィーチャーした2つのコマ撮り映像を作ります。いずれも3分前後。ミュージックビデオのようなものにはなりそうです。ある形状を出力する工作機械の動作原理として、素材を付け足していく付加製造と、素材の塊から削り出していく除去製造の2つがあるんですが、今回の映像はそれぞれに対応しています。助成プロジェクトの提案名を『Additition / Subtraction(付加と除去)』にしたのには、そうした背景があります。
CNCを動作させるG-Codeというテキストを直接編集し、「加工している途中でツールを退避させて、カメラで撮影する」工程を繰り返させることで、CNCが動作するプロセスそのものをアニメーション化してみようっていうのが今回の映像のミソです。 https://baku89.com/wp-content/uploads/2022/07/proposal_illust.2021-07-20-18_40_56.gif
習作やテストは、実はちょこちょこと重ねています。例えばこれは今は無きViceのために作った映像なんですが、スタイロフォームやホワイトウッドを削って撮影しました。
https://vimeo.com/695626316
あるいは、友人のテクニカルディレクターの鉄塔さんが設計された3Dプリントレンズ TETTOR を出力しているとところを、こんな感じでコマ撮りしてみたり。 https://www.youtube.com/watch?v=adNg_qpjX1Q
こういう映像自体は、YouTubeなんかでも積層タイムラプス映像などでよく目にすると思うんですが、自分で撮ることで改めて気付いたのは、物理的に出力される過程で起こるエラーの面白さです。アニメーション自体は3DCGソフト上でデジタルに作られているものだけど、それをCNCを用いて現実空間に「レンダリング」した時に漏れだす綻びのようなものに、独特の快楽があるような気がするんです。さきほどのタイムラプス映像は、お世辞にも品質が良いとは言えませんが、ホットエンドを退避させてシャッターを切る間に垂れ下がったフィラメントが左側にテケケケケッとくっついたり、湿気を吸い込んだために筒の内側にチリチリと糸を引いているところって、アニメーションとしてもどこか気持ちいい。 どんな種類の「リアル・グリッチ」のようなものを引き起こせるかを実験してみたいなって思いながら、フィラメントを風呂場に吊るしてみたり、Gコードの数値をランダムにバグらせたりして遊んでいます。
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絶対やっちゃだめなやつ
もう一つの実験は、カメラをCNCを用いてモーションコントロールするということです。撮影に先立って、XYZの3次元移動に加えて、パン・チルト・ロールといったカメラ向きの制御、そしてズームとフォーカスというレンズ制御という、合計8つ軸からなる箱状のCNCを設計しています。1辺1.5mもあるので、自宅の空き部屋に足の踏み場もないほどミチミチになりながら組み立てています。撮影対象としてのCNCを、撮影リグとしてのCNCが取り囲むという再帰構造もまた、自分の好みだったりします。
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ただカメラが出力物の断面を定点的に捉えていくんじゃなくて、音の温度感に合わせてジワジワと縦横無尽に回り込んでくれたら、björkの『hyperballad』じゃないですけど、映像全体にうねりのようなものが生まれるんじゃないかと読んでいます。実際撮影してみないとどういうカメラワークが気持ちいいかはわからないんですが。 ちなみにこんなプレビズを作って、楽曲をお願いするミュージシャンにプレゼンしたりしていました。
https://www.youtube.com/watch?v=-32rzCsWvis
ところで、プレビズって難しいですよね。適当に作っちゃうと、あぁこんなもんかって思われるし、リアルに作り込み過ぎると、まんま最終形の見た目だと思われたり、実際に撮ったときのブレや綻びが不完全さだと受け止められるかもしれない。見せる側も、「この感じを目指しますが、これとはまた違う味わいが実際の映像には宿るはずです」という、矛盾した但し書きを添ええなくちゃいけないし、見せられる側にも、ある種の想像力が求めるわけです。実際この映像も、後ろ側に映り込む3Dプリンタ、多色印刷や変化するLED照明など、作り込めてない要素は多々あります。だけど、そんなディティールを逐一盛り込む時間があれば実制作に取り掛かりたいし……。プレビズといっても、どこまで前もってビジュアライズするかの線引きは難しいなって思います。
自分なりのさしあたりの解決策は「プレビズからニュアンスを解してくれて、最終的にはディレクターを信じてくれる人しか巻き込まない」という独善的なスタンスを取ることかもしれません。仮にプロデュース能力や資金調達のつてがある方だったとしても、クリエイティブに踏み込んだ関わり方をしようとするあまり意思疎通に手間がかかるのであれば、プロジェクトとしての広がりを断ってでも内輪で作ったほうがマシ、って思ってしまうんですよね。ただ、このへんの頑固さは数年内には変わっていきそうな気もします。 幸いにも、お声がけしたミュージシャンや、テクニカルディレクターとして相談や設計を手伝ってくださっている右左見拓人さんに武田誠也さん、協賛企業の方々、そして助成事業として採択してくれたmimoidの別所梢さんをはじめ運営事務局の皆さんも、ぼくの説明能力の至らなさゆえにあまりちゃんと伝わってはいないながらも、「まぁ、何かにはなるでしょ」と信じて任せてくれているのをひしひしと感じています。日々ありがてぇ〜と思いながら、制作に励んでいこうと思います。 ちなみに、今回の映像は光学合成を用いた疑似ワンカットになる予定です。めちゃくちゃ長いトーテム状の造作物が、3分かけて積層・切削されていくところを、カメラが舐めるように撮っていくっていう。気合の入っている映像ほど、一本うどんにしてしまうクセがあるんですよね。モンタージュした瞬間に、作る側も観てる側も集中力が切れてしまうような感覚がどこかであるんでしょうか。
実際問題CNCの出力高さにも限りがあるわけですが、どういう風にワンカット撮影するかはそのうち書きまます。
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